Episode.1「太古の遺跡にて」1

 春の日差しは暖かく、そして穏やかに澄み切っている。
 悠然たる農業と魔術工業の国・ウォルナット王国本土から軽く離れた位置にある、穏やかなる領地・フランジット島の一角。
 朝食の時間を過ぎ、日がゆるりと立ち上がる日中の初めの時間帯に、軽やかな丈の短い白のチューブトップワンピース一枚で出歩く者がいた。
 ワンピースのウエストを美しく彩る、オレンジの幅の広い燕尾飾りが揺れる装美性の高い固締めの剣帯の両脇には、短剣がそれぞれ一振ずつ挿さっていた。
 ワンピースの女性は、ハニーベージュの髪がかかる自慢の長耳で、向かってくる行商人の足音をとらえた。そのまますれ違いざまにお互い会釈をして、お互い通り過ぎる。
 島随一の都と称されるブルーミングからほど近い草地の中で、軽装な耳長の女双剣士は土の道へと立ち歩く。
 街から離れたせいで道らしい道が途切れ、背後には背丈の低い草が生い茂る中、オレンジと赤の装飾が光るニーハイブーツの靴底は、的確に地面をとらえている。
 彼女は軽やかな足取りで幾ばくか歩く中、今日の予定を振り返る。
 今日は市街地近隣の遺跡での、内部調査の応援業務だ。調査対象の遺跡は発掘が終わっていて、内部でモンスターの討伐や、事前調査をすればいい。とても簡単で、よくやりなりているクエストだ、と耳長の女性は得意げに笑顔になる。
 強靭なモンスター群の討伐や、曲者のお尋ね人確保ばかりだった日々はそれはそれでやりごたえがあるものだったが、遺跡探索は知的好奇心と適度な冒険心が両立していて、彼女としては面白くて楽しい、ささやかな趣味と実益が合わさった業務だった。
 まだらだったあぜ道はやがて、ひと繋がりの土の大地に変わった。
 深い青の女性の目は、濃い灰色の建物をぴっ、ととらえる。
(――ここだ)
 耳長の女性は、重たい建物のある、鉄製の重厚なあつらえのフェンスで囲われた敷地の一角に、足を踏み入れた。
 入口近くの木製の看板には、「グレイサム遺跡」と、その土地の名前が記されていた。